◇◇◇目を覚ますと、もうケイロたちは出立した後で、朝を迎えていた。初の異世界一泊目が、さっそく抱き潰されコースって……。しかもケイロが戻ってくるまで、俺の中の不思議工事が継続しちゃうから、ずっと圧迫感が消えないまま過ごさなきゃいけない。「ケイロのアホー……こっちに来ていきなり変態プレイじみたことするなよぉぉ……」一人で泣き言を呟いてから、俺はハァ……と諦めのため息をつく。まあ事情が事情だし、ただのエロ目的のプレイって訳でもないし、仕方ないよな。人間、割り切りが肝心だ。うん。俺は気持ちを切り替えると、ベッドから出て部屋の外へ向かう。尻が落ち着かないし、挿れっぱなし感が半端ないんだけど……まあ慣れれば大丈夫、かな?ドアの前で深呼吸して、念入りに平常心を作り上げていく。神官さんたちの前で発情して感じちゃってる顔なんて、絶対に見せられない。見られた日には心が死ぬ。一生思い出して悶死する自信しかない。意気込んでからドアを開けると、広々とした大理石の廊下と、均一に並んだ柱が視界に入る。おおっ、古代ローマの神殿っぽい造りだ。ファンタジーらしいファンタジー建物だ!辺りをキョロキョロと見回しながら歩いていくと、柱の陰に、いくつか小さな光球が浮かんでいるのが見える。こっちの精霊だ。俺は近づいて光球たちを見上げ、声をかけてみた。「こんにちはー。俺の言葉、分かるか?」一瞬、光球たちが驚いたように動かなくなる。それから疎らに光を強め、返事をしてくれた。「おっ、あっちの世界の精霊と同じ反応だ。ってことは意思疎通バッチリできるってことか」精霊は顔がないし、百彩の輝石以外は喋らないから無機質なエネルギー体に見えちゃうけど、意外とリアクションが豊富で感情豊かだ。早速こっちの精霊たちも俺に興味を持ったようで、自分から近づいて、俺の周りをクルクルと周り始める。動きがちょっと速めで、浮足立っているような?まるで遊び盛りの子犬がはしゃいでいるみたいだ。ということは――。「歓迎してくれてるんだな! ありがとう。俺も会えて嬉しい。俺、坂宮大智。よろしくな」こっちが挨拶すれば、光球が点滅して挨拶を返してくれる。出会って数分で仲良くなれるんだから、精霊と心通わすって難しくないんだけどなあ。そうだ。せっかくだし、精霊たちにここらを案内してもらおうかな?と思った矢
なんで異世界まで来て、変態に見られるようなマネをされなくちゃいけないんだよ……。気を抜いたら簡単にイっちゃいそうだし、変な声出そうだし、そのまま倒れてよがっちゃいそうだし……なんで猫がマタタビもらったみたいにコテンコテンしているんだ? って可哀想な目で見られるなんて嫌だぞ。腹が立つやら、泣きたいやら、このまま流されたいやらで、俺の体も頭もグチャグチャだ。プルプル震えながらケイロを睨み続けていると、突然ケイロが俺の肩を掴み、グイッと押してくる。――ドンッ、と背中が壁に当たる。あっ、逃げ場を奪われた。ザワワッ、と全身が撫でられる感触が……魔法で清めやがったな。こうなったら流れは一択だ。「ケイロ、おま、急に盛るな……んむ……っ」俺の文句は無駄だと言わんばかりに、ケイロが俺の唇を塞いでくる。ここ最近は丁寧にじっくり長々と抱き潰されてたから、これだけ性急なのは久しぶりだ。しゃぶるようなキスに溺れながら、俺は抗えずにケイロの背にしがみつく。なんか、すごく変な感じだ。まだケイロは俺にキスしかしていないのに、腰の奥は圧迫感があって、中が感じたがってキュウキュウと締め付ける。「ン……ッ……あっ、んン……ッッ……」体が勝手に身を捩ってしまい、自分で自分を刺激してしまう。腰を揺らせば奥の良い所にグッと押し込まれる感触がして、呆気なくイッてしまう。こうなってしまうと、気が済むまでヤり続けないと体が延々と疼いて、ケイロのことしか考えられなくなる。自分からも夢中になって舌を絡め、体を押し当てて刺激を求める。そんな淫らな俺をさらに煽るように、ケイロは俺の体に手を這わせ、服の下に潜り込ませて肌を愛撫する。まだ挿れていないのに、激しくヤってる感が……でも、これだと物足りない。繋がってる感はずっとあるのに、熱がない。俺だけの熱が高くなるばかりで、満たされない。思わず俺は自分からケイロに背を向け、腰を突き出して強請ってしまう。「ったく……離れる前に、俺ン中に出していきたいんだろ……っ、まだここにいるんだから、挿れろよぉ……」気持ちいいことに貪欲になってしまった俺を見て、ケイロの顔が緩む。こっちの世界に来て、ようやく気を抜いてくれたようで、つい胸がキュンとなってしまう。「どんな感じになるのか教えてやろうと思ったんだが……大智がそう望むなら応えてやらないとな」
◇◇◇神殿で一泊するために通された部屋は、広々として、ベッドやソファなんかも大きくて立派で、明らかに偉い人が泊まる用の所だった。床も壁も大理石。その上にフカフカな深紅の絨毯が敷かれている。神殿の一室っていうよりも、城の部屋って言われたほうがしっくりくる内容だ。「スゲー……なあケイロ、本当にここで泊まっていいのか?」辺りをキョロキョロ見渡しながら話しかけると、ケイロからフッと笑う声が聞こえてきた。「これぐらいで驚いていると、城に行ったら驚きすぎて気を失いそうだな」「えっ、ここよりさらに大きいのか!?」「王が住まう城だぞ? 当然だ」見た感じ、この部屋でも三十畳はありそうなんだけど、それよりもさらに大きいのかよ。確かに城だもんなあ。……この大きさでも落ち着かないんだけど。 一般家庭の八畳部屋で育ってきた身としては、こんなに大きい部屋にいるだけでなぜか申し訳ないというか、居た堪れない気持ちになってくる。俺なんかがこんな部屋使ってごめんなさい、という謎の貧乏性を発動させていると、ケイロが「大智」と硬い声で呼んできた。珍しいなと思いながら振り向くと、声よりも硬く、真面目な表情のケイロが俺を見つめていた。「すまないが今からここを発つ。お前は俺たちが戻るまで、神殿から出ずに待っていてくれ」「俺だけ置いて行かれるのかよ……せっかくの異世界なんだし、神殿の周りをちょっと散歩するぐらいダメか?」「駄目だ。大智に何かあっては困るんだ。頼むから大人しくしていてくれ」ふざけている訳ではない。本気の言葉だ。 言うことを聞くしかないと分かった上で、俺はわざとらしく大きなため息をついた。「はぁぁ……しょうがないな。なんとかガマンするけど、神殿内は見物してもいいだろ? それぐらいは許してもらえないとキツいぞ」「仕方ない。必ず神官の誰かを連れて歩くようにしろ。人目につかない所には絶対に行くな」だんだん慎重になりすぎて幼児扱いされてる気分になっていると、さらにケイロがとんでもないことを言ってきた。「それから、なるべく早く戻る気ではいるが、もしかすると数日かかるかもしれない」「数日って……だって俺、三日に一回はお前の体液を体内に入れないとダメなんだぞ? どうすんだよ!?」婚華の指輪のせいで、正式に結ばれた後もこの厄介なルールは続いている――三日どころか、ほぼ
「大智様、大変失礼しました。驚きのあまり身動きが取れなくなってしまったもので……いやはやお恥ずかしいところを見せてしまいました」神官たちの中でも見るからに年長者だと分かる老神官が、俺の前にやって来てゆっくりと頭を下げる。長くてうねうねの髪も、胸元まで伸びた顎ヒゲも、キレイな銀色。深い皺が刻まれていても、若い時は美人だったんだなって分かる品の良い顔立ちだった。俺もぺこりと頭を下げ、老神官に笑ってみせる。「いえ、俺も自分の世界でケイロに驚かされっぱなしでしたから、気持ち、すごく分かります」「なんと懐が広いお方。殿下が大智様を選ばれた理由が分かった気がしますねえ……ああ、申し遅れました。私は神官長のオーリム。どうかお見知りおきを」オーリムさんと話をしていたら、隣でケイロが目を閉じながら小さく頷くのが見える。何も言わないけど、「やっと分かったか愚民どもめ」なんて盲目的な俺様王子の心の声がダダ漏れだ。これが他のことなら呆れるだけで済むんだけれど、俺のことだからなんか居た堪れない。誤魔化すように俺は咳払いすると、ケイロに尋ねた。「ひょっとしてなんだけど……ケイロの家族にもこんな調子で雑に伝えて、本気にされていないってことはないか?」「さすがに父に無礼があってはならないからな。細心の注意を払って丁寧に伝えてきた」「ケイロの父ってことは王様だよな……分かってくれたのか?」「すべて説明を終えた後、氷の彫像のように固まってしまって反応しなくてな。俺がその場に居続けても意味がないと思って、そのまま席を立って部屋を後にした」「王様を放置プレイするなよ! ってことは実質神官の皆様と同じ状態じゃねーか……うわぁ、前途多難だ……」頭を抱えて唸ってしまう俺に、ソーヤさんが苦笑しながら「ご安心下さい」と声をかけてきた。「本日はこちらの神殿で休ませてもらい、その間に王城に事情をお伝えして大智くん……いえ、ここでは大智様と呼ばせて頂きますね。大智様を迎える準備を進めて参ります」様付け……王子の妃だもんな。俺に似合わないって分かっていても、受け入れ
◇◇◇強い光に一瞬目がくらんで、意識がプツッと途切れる。それからすぐにスイッチを入れるように意識が戻った時には、目の前の視界が変わっていた。「……え?」思わず俺は声を漏らす。ついさっきまで百谷家の中庭にいたのに、目に飛び込んできたのは白亜の神殿っぽい所だった。どう見てもザ・異世界。ついに来ちゃったよ異世界。分かった上でケイロたちと一緒に来たけど、実際に目の当たりにすると頭ン中がバグる。これ、夢じゃないのか? って思いたくなってしまう。すげーベタだけれど、俺は自分の頬をつねってみる。……うん、痛い。夢じゃない。ということは、俺の世界から一瞬で異世界に来ちゃったのは現実。そんでもって目の前に並んだ神官っぽい方々が、俺を見て石像のように固まってガン見してくるのも現実ってことか。「着いた早々に何をやってるんだ、大智?」隣から訝しげなケイロの声がしてハッと振り向く。見慣れた生意気俺様同級生じゃなくて、キラキラの金髪王子様なケイロの姿にビクッとなってから、俺は我に返って笑った。「いやー、実は夢じゃないかって思って、ちょっとつねって確かめてた」「どう見ても現実だろ。確かめる間でもない」「ケイロは自分の世界だからこれがフツーかもしれないけど、俺にとっては未知の世界なんだからな? お前の姿にもまだ慣れてないっていうのに……」話をしていくと、少しずついつものケイロとの距離感が戻って来る。王子様相手にこれで大丈夫なのかって思いはするけれど、今さら畏まれない。だって夫婦だし。先にアシュナムさんとソーアさんが、神官たちに駆け寄って話をし始める。距離があるから何を言っているのかよく聞こえないけれど、なんか我に返ってざわつき出しているような……?よく分からないけれど変な空気になってるような気がしていると、ケイロが俺の手を引きながら神官たちに近づいていく。
俺たちが話している間に、ソーアさんが庭の中央で手をかざし、精霊たちを集めて光を膨らませていく。今は夏の午前中。空は快晴。すでに眩しい日差しが痛い。そんな中で庭を光らせても目立たないから、周りにこの不審で不思議で非常識な現象はバレないだろうと俺は安堵していた。今までもこんな感じで異世界に戻る準備してたのかな?こっちにまた来る時は、夜じゃなくて昼にしような。この光のせいで、俺、巻き込まれるハメになったんだから。ぼんやりとした半円状の白い光が、俺たち四人が入れる大きさになった時、ソーアさんが俺たちに振り返った。「お待たせしました。いつでも行けます」「よし。行くぞ大智」ケイロは短く頷くと、当たり前のように俺の手を掴み、光の所へ引っ張っていく。「こ、コラ、子供じゃないんだから、言えば俺も移動するって……お前に触られたら、体がヤバくなるんだから――」俺たちの関係を知っているとはいえ、人前でベタベタするのは抵抗がある。しかもケイロに触られると疼く体にさせられたから、恥ずかしさも加わってもう腰の奥が熱い。行く前から羞恥プレイに耐えるハメになっている俺に、ケイロは笑わず、真顔で話を遮った。「しっかり手を繋いでおかないと、転移の際に離れ離れになってしまう。最悪、世界の狭間に落ちて二度と帰れなくなることもある。だから我慢しろ」「マジかよ!? うう……じゃあ、なんとか我慢する」とんでもないガチな事情が判明して、俺の背筋がブルルッと震える。思わず俺からもガッチリ手を握り返すと、戯れにケイロが親指で俺の手を撫でてきた。「責任は着いたらじっくりと取ってやるから安心しろ」「できねぇよ! せっかく異世界旅行できるのに、抱き潰されコースで帰宅なんて絶っっっ対に嫌だからな!」冗談のつもり……じゃないな。ケイロのヤツ、本気だ。全力ツッコミを入れながら、俺は必死に異世界に着いた後、いかにケイロの部屋に連れ込まれないかを頭の中でシミュレー